甘口ワインについて

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甘口ワインの種類

ワインにも他のお酒と同様、甘口と辛口があります。

スパークリングワインの節で残糖分による表示の違いを表にしましたが、スパークリングワインに限らず最終的にワイン内に残った糖分の多少によって甘口、辛口が決まります。甘口ワインの作り方はおおざっぱに言って3つあります。 ワインのアルコールは酵母による発酵によって生じますが、この酵母菌、アルコール度が14〜15%以上では生育できません。つまり葡萄ジュース内の糖分を分解してアルコール度が14%程度に達するとそれ以上糖分の分解が出来ずにワインの中に糖分が残ってしまい甘口となります。この現象を利用して葡萄ジュースの糖度を高くする方法が甘口ワインの一つの製造方法です。2つめは前節のシャンパーニュの様に後から甘いリキュールなどを添加する方法。

3つめはアルコール発酵の途中でブランデーなど高いアルコール濃度の酒を添加し葡萄ジュース内に糖分が残っている段階で発酵を停止する方法です。 ここでは貴腐ワインと遅摘みワイン、アイスワイン、そしてちょっと種類が異なりますがズースレゼルヴについてお話します。

それから普通のワインの本には決して書いていない注意事項を挙げておきます。
「虫歯のある時は、甘口ワインは避けたほうが良いでしょう。とっても,しみます」
ワインを飲むには歯の健康も大事です。
 

貴腐ワイン

この名前は聞いたことのある人が多いでしょう。でも貴腐(きふ)というのは完全に当て字で実際にはフランス語の"pourriture noble"、英語の"noble rot" なのですが、どなたか文才の有る方がこの字を当てたようです。個人的には良い当て字(訳)だと思っています。

さて、世界3大貴腐ワインというと、フランスのソーテルヌ、ドイツのトロッケンベーレンアウスレーゼ、最後にハンガリーのトカイアスーが有名です。ちょっと値段の張るものが多いですが、これには訳があります。つまりなかなか出来にくく希少価値があるという事なのです。

ソーテルヌを例に説明しましょう。ソーテルヌはボルドー地方を流れるガロンヌ川の中流域にありますが、川からの湿気で秋になると朝のうちに霧が立ち込めます。葡萄畑もこの霧に覆われてしまいます。でも午後になるにしたがい、霧も晴れ今度は乾燥してきます。貴腐ワインにとってはこの気候がまさにぴったりなのです。

さて貴腐という字の「腐」ですが、読んで字の如く腐る訳です。葡萄が腐るとはカビが生えることなのですが、つまり朝のうちの霧による湿気で葡萄にカビが生えてしまうんです。でもこのカビ(ボトリティス・シネレア)は貴腐ワインに限っては良い影響をワインにもたらします。普通、このカビは「灰色カビ病」の原因となる菌で嫌われ者です。でも完熟した葡萄に付くと、面白い現象が起きます。このカビは葡萄の皮の表面のワックスを食べ葡萄の皮に菌糸を入り込ませていきます。すると葡萄の皮に無数の穴が開いたような状態になります。ここに午後からの乾燥した天候が作用すると葡萄内部の水分がカビに無数の穴を開けられた皮を通して蒸発してしまいます。これを繰り返すことにより中の果汁が濃縮されていきます。

このようにして濃縮された果汁を絞ると果汁状態での糖分が30%〜40%もある甘いぶどうジュースができます。こんなに糖分が多すぎるぶどうジュースからワインを造ろうとすると発酵そのものが起きにくく更には発酵が途中で停止してしまったりします、この結果、ワイン中に大量の糖分が残されます。このようにして造られたワインが貴腐ワインです。でも、カビでうまい具合に果汁が濃縮された葡萄のみを収穫する必要があり、一粒一粒厳選して選果することになります。このため人手もかかり、また天候に恵まれる必要もあるため高価な物になっているのです。
 

遅摘みワイン

ボトリティス・シネレア菌がつかなくても、完熟した葡萄を収穫せずにそのまま木につけたままにしておくと、乾燥した天候が続くとだんだん干しぶどうの様な状態になっていきます。

この生乾き干しぶどう(?)からワインをつくると糖分が濃縮されているため、やはり甘口ワインができあがります。この方法で造る甘口ワインが遅摘みワインです。

フランスですとボルドーを流れるガロンヌ河、ドルドーニュ河の上流にあたる地区の一部(ベルジュラックなど)やドイツのシュペトレーゼ、アウスレーゼ、ベーレンアウスレーゼなどがこれに当たります。貴腐ワインの場合、ボトリティス・シネレア菌による独特の風味がつきますが、遅摘みワインにはありません。
 
ただしドイツのアウスレーゼ、ベーレンアウスレーゼの場合はボトリシス・シネレア菌の助けを借りて糖度を上げていることが多く、この意味で純粋な遅摘みワインとは言い切れない部分があります。実際、良いアウスレーゼで貴腐香を感じることがあるのはこのためです。
 

アイスワイン

遅摘みワインをつくっている間に猛烈な寒波がやってくると葡萄が木に付いたまま凍ってしまう事があります。この凍った葡萄の実を凍ったまま絞ると水分が凍っているため、濃厚な葡萄ジュースがとれます。これから造ったワインがアイスワインです。

ドイツのアイスヴァインが有名ですが、他にもカナダ、アメリカ合衆国、オーストリアなどでも造られています。かつては出来の悪い葡萄の起死回生に使われた事もありましたが、現在は十分に熟した葡萄から造るようになっています。

遅摘みの葡萄が凍るわけですからトロッケンベーレンアウスレーゼと同じくらいの糖度になりますが、ボトリティス・シネレア菌の影響が無いため貴腐ワインとは違った風味のワインとなります。天候にも左右される貴重なワインですので、大変高価です。葡萄を収穫するのは気温の低い夜中から朝方ですし、葡萄を絞ると氷の固まりの様になってしまうのでプレス機を止めてハンマーでこの氷の固まりを砕きながらという作業が行われたりもします。
もうひとつクリオ・エキストラクションという方法があります。これは人工的に葡萄を凍らせてアイスワインにしてしまおうという試みです。日本でもこの方法で造られたワインがあります。でもやはり自然の力にはかなわないのでしょうか。本物のアイスワインとはちょっと味わいが違うようです。もちろん値段も違いますね。
 

ズースレゼルヴ(ドイツワイン)

ドイツワインのうち比較的ボピュラーなクラスのワインにはズースレゼルヴという果汁を加えることにより、独特の甘味やフレッシュさを作る方法があります。どいつでは最大25%までこのズースレゼルヴを混ぜることが出来ますが、実際にはQbAクラスのワインで15%程度と言われています。

ズースレゼルヴとは簡単に言えばワインにする前の同じ葡萄から造った葡萄ジュースのことで、高温瞬間殺菌法や特殊精密フィルタでの濾過、高圧炭酸ガス雰囲気での保存などの技術を用いて新鮮な状態で果汁を保存しておき、ワインの仕上げの際に添加します。これによりドイツワイン特有の甘味と酸味を持ったワインが出来上がります。通常は発酵によって葡萄ジュース内の糖分を全て分解し辛口に仕上げたあとにズースレゼルヴを加えて甘口にする事が多いようです。
 


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